アメリカ腎臓学会誌の論文を根拠とした製薬会社の開示 — Alnylam Pharmaceuticals, 2016-08-04
Alnylam PharmaceuticalsAlnylam PharmaceuticalsNASDAQ ALNY
公表 SEC · 時価 Yahooは、米国証券取引委員会に提出した開示資料で、American Society of Nephrologyのジャーナルに掲載された論文を主張の根拠として引用した。会社がその論文をどのように書いたか、そして論文が実際に示した範囲を順に読み進めた。開示資料の後、1か月間の株価の動きが、過去の同様な事例と比較してどの程度かを記録した。これは結果を知った後に書かれた事後的な判断である。論文は要旨までしか読まれていない。
公表は報道資料内で論文をこう書いた
米国上場企業が株主に報告する必要がある場合、証券取引委員会証券取引委員会 (U.S. Securities and Exchange Commission)
規制当局 · 公式サイト(SEC)に提出する不定期報告書を8-Kという。Alnylam Pharmaceuticalsが2016-08-04に提出したこの文書の項目番号は2.02 成績発表・9.01 財務諸表・添付文書だった。会社はその添付資料につけた報道資料で、Journal of the American Society of Nephrologyに掲載された論文を根拠に挙げた。論文を引用したその文を原文のまま転載すると以下の通りである。
The Company also announces today the publication of pre-clinical data with ALN-GO1 for the treatment of primary hyperoxaluria type 1 (PH1) in the Journal of the American Society of Nephrology (Liebow et al., J Am Soc Nephrol, 2016; doi:10.1681/ASN.2016030338).
読者がまず見るべきなのは、企業がその論文をプレスリリースのどの部分に掲載したかである。次に、その論文が企業の主張全体を裏付けるものであるか、あるいは一部のみを裏付けるものであるかを区別する必要がある。後者の質問に答えるには、論文全文を読む必要がある。この記事は要旨までしか読んでいないため、それに答えることはできない。
論文が要旨で述べた範囲はここまでのものである。
論文のタイトルはAn Investigational RNAi Therapeutic Targeting Glycolate Oxidase Reduces Oxalate Production in Models of Primary Hyperoxaluriaであり、Journal of the American Society of Nephrologyに2016-07-18に掲載された。著者の所属はAlnylam Pharmaceuticals (United States) · University of Alabama at Birminghamである。論文冒頭に掲載される要約文は要旨と呼ばれる。この記事が読んだのはそこまでである。機械が要旨を読んで作成した下書きを数字の照合でフィルタリングした後、人が再び書いた段落であり、全文を読んだ正確な判読とはランクが異なる。
原発性高オキサラート症候群1型を対象に、RNA干渉方式で1つの酵素を沈静化する治療薬ALN-GO1の開発過程を報告した論文である。この病気は酵素欠損によりオキサレートが過剰に生成され、腎臓に結石が蓄積される。最終的には末期腎不全に至る。現在確実な治療法は肝臓と腎臓を同時に移植することだけである。生涯にわたる免疫抑制と手術リスクを伴う必要がある。治療薬開発段階を扱った論文であるため、人間の患者における効果はこの論文の範囲外である。
要旨が答えられない情報は、全文と付録に残っている。そこまで到達していないこの記事は、空白を空白のままにする。企業が引用した箇所が要旨のどの文に該当するかは、上記の2つの引用を照らし合わせて読者が自ら判断する。
1か月後には、株価はサンプルの中段の半分に位置していた。
市場全体と同様に動く分を除いた残りの収益率を超過収益という。日付は株式市場が開いている日だけを数える取引日で記載する。カレンダーでいうと、20取引日は1か月前後である。この事例の公表当日とその後1か月の超過収益を下の表にまとめた。
| 期間 | 市場に対する超過収益 | 意味 |
|---|---|---|
| 公表の5営業日前 | +4.2% | 公表前の既存の動きの程度 |
| 公表当日 | −0.8% | 公表日または翌初日 |
| +1〜+5営業日分の累計 | +2.9% | 1週間 |
| +1〜+20営業日累計 | −4.7% | 1か月 |
同じタイプの過去事例を集めた束を標本という。その中で下から数えたときの位置を百分位で表記する。この事例の1か月超過収益−4.7%は、標本142件のうち下から56%にあたる中段の半分以内である。
| 標本目盛(20営業日) | 下から10番目 | 下から4番目 | 中央値 | 上位25% | 上位10% | この事例 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 超過利益 | −31.9% | −20.1% | −7.4% | +5.5% | +19.5% | −4.7% |
サンプルの半分は、表の中央の目盛りの間に入る。この事例がその範囲内に入るか外れるかは表で確認する。サンプルは、過去十数年間に米国上場企業が8-Kに論文を記載した事例を集めたものである。この企業自身はサンプルから除外した。ここに書かれた数字は過去の事実であり、次の事例に適用するルールではない。
開示後、企業はこのような文書を出した
開示日以降にこの企業が提出した3件の8-Kの項目番号のみを記載する。タイトルのない8-Kでは項目番号が内容の種類を示すためである。業績発表だったのか契約だったのかはその番号で判別できる。何の出来事だったかは各リンクの原文で読む。
- 2016-09-19 8-K 項目 1.01,5.02,7.01,9.01 — 重要な契約の締結・役員・取締役の変更・Reg FDの公開・財務諸表・添付書類
- 2016-10-05 8-K 項目 8.01,9.01 — その他の出来事・財務諸表・添付書類
- 2016-11-02 8-K 項目 2.02,9.01 — 成績発表・財務諸表・添付書類
この記事が答えられていないこと
要旨だけ読んだこの記事は、論文がどのような方法で何を再現し、どこまで示したかに答えられていない。企業が引用した論文がその後どれだけ引用されたかは、OpenAlexOpenAlex
データ源 · 公式サイトの引用数で再確認できる。次に見るべきことは、この企業の次の8-Kで同じ論文が再度引用されるかどうかである。
用語解説
- 8-K
- 米国上場企業が株主に報告すべき事項が発生した際に証券取引委員会(SEC)に提出する随時報告書。業績・契約・役員の変動などの項目番号で種類を示す。この記事の事象はすべてこの文書から出ている。
- 超過収益
- 株価収益率から市場全体の収益率を引いた残り。市場全体の上下を除いて、その企業独自の動きを見るために用いる。
- 取引日
- 株式市場が開いている日だけを数えた日数。土日や休場日は除かれるため、20取引日はカレンダーで1ヶ月前後となる。
- サンプルとパーセンタイル
- 同じタイプの過去事例を集めた束が標本であり、その中で下から何番目であるかを百分位で表記する。百分位が10であれば、10件のうち9件がこの事例よりよかったことを意味する。
- 要旨
- 論文の冒頭に掲載される要旨。何をどのように行い、どのような結果を得たかを著者が数文で記述する。本文を読まなければ方法の詳細や限界は把握できない。