Hepatology Communications論文を根拠とした製薬会社の公表 — Lipocine, 2020-09-14
LipocineLipocineNASDAQ LPCN
公表 SEC · 時価 Yahooは米国証券取引委員会に提出した開示資料で、Hepatology Communicationsに掲載された論文を主張の根拠として引用した。会社がその論文をどのように書いたか、そして論文が実際に示した範囲を順に読み進めた。開示資料の後、1か月間の株価の動きが過去の同様な事例と比較してどの程度かを記述した。これは結果を知った後に書かれた後見的判断である。論文は要旨部分までを読んだ。
公表は報道資料内で論文をこう書いた
米国上場企業が株主に報告する必要がある事項が生じた場合、それを証券取引委員会(SEC証券取引委員会 (U.S. Securities and Exchange Commission)
規制当局 · 公式サイト)に提出する随時報告書を8-Kという。Lipocineが2020-09-14に提出したこの文書の項目番号は8.01 その他事件・9.01 財務諸表・添付文書であった。会社はその添付資料としてつけた報道資料で、Hepatology Communicationsに掲載された論文を根拠として挙げた。論文を引用したその文を原文のまま転載すると以下の通りである。
報道資料から論文を引用した文を自動的に見つけられなかったため、原文リンクで確認する。他の段落に置き換えない。
読者が最初に見るべきは、企業がその論文を報道資料のどの部分に配置したかである。次に、その論文が企業の主張全体を裏付けるものであるか、一部を裏付けるものであるかを区別する必要がある。後者の質問に答えるには、論文全文を読む必要がある。この記事では要約までしか読まれていないため、それに答えることはできない。
論文の要約で述べられている範囲はここまでである。
論文のタイトルはLPCN 1144 Resolves NAFLD in Hypogonadal Malesであり、Hepatology Communicationsに2020-08-02に掲載された。著者の所属はVirginia Commonwealth University · Lipocine (United States) · University of Chicagoである。論文の冒頭に掲載される要旨は要約と呼ばれる。この記事が読んだのはそこまでである。機械が要約を読んで書いた下書きを数字の照合でフィルタリングした後、人が再び書いた段落であり、専門を読んだ正式な判定とはランクが異なる。
男性ホルモンが不足している男性にテストステロン前駆薬を投与した単一群公開試験のうち、磁気共鳴画像で肝臓脂肪を複数回測定した36人のデータである。開始時の肝臓脂肪が基準値を超えて脂肪肝とみなされる人は3人中2人であった。そのうち大多数は肝臓脂肪が減少し、16週目にはほぼ半数が脂肪肝の基準値から外れた。大きな副作用はなかった。対照群を持たない小規模なデータであるため、薬の効果であるのか、時間が経過して自然に改善したのかはこの論文では判断できない。
要約が答えない部分は、本文と付録に残されている。そこまで踏み込まないこの文章は、空白をそのままである。企業が引用した部分が要約のどの文に該当するかは、上記の二つの引用を比較して読者が自分で判断する。
一か月後、株価はサンプルの中間の半分に位置していた。
市場全体と同様に動く分を除いた残りの収益率を超過収益という。日付は株式市場が開いている日だけを数える取引日で記す。暦で言えば、20取引日は一か月前後である。この事例の公表当日とその後一か月の超過収益を下の表にまとめた。
| 期間 | 市場対比超過収益 | 意味 |
|---|---|---|
| 開示の5営業日前 | −2.5% | 開示前にすでに動いた程度 |
| 開示当日 | +7.8% | 開示日または翌初の取引日 |
| +1〜+5取引日累計 | +28.1% | 1週間 |
| +1〜+20取引日累計 | +4.1% | 1か月 |
同じタイプの過去事例を集めた束を標本という。その中で下から数えたときの位置を百分位で表記する。この事例の1か月超過収益+4.1%は、標本142件のうち下から73%にあたる半分以内である。
| サンプル目盛(20営業日) | 下から10番目 | 下から4番目 | 中央値 | 上位25% | 上位10% | この事例 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 超過利益 | −31.9% | −20.1% | −7.4% | +5.5% | +19.5% | +4.1% |
標本の半分は表の中央の目盛りの間に入る。この事例がその中に含まれるか、外れるかを表から確認する。標本は、過去十余年にわたって米国上場企業が8-Kに論文を記載した事例を集めたものである。この企業自身は標本から除外した。ここに記載された数字は過去の事実であり、次の事例に適用するルールではない。
同じ企業が論文を8-Kに記載した事例が標本に3件さらにあり、下の表に一緒に載せた。
| 公表日 | その論文の学術誌 | 1か月以上の超過利益 |
|---|---|---|
| 2020-08-03 | Hepatology Communications | −10.3% |
| 2020-09-21 | Hepatology Communications | −20.1% |
| 2021-03-04 | Journal of Endocrinological Investigation | +8.7% |
公表後、企業はこのような文書を提出した
公表日以降に企業が提出した3件の8-Kの項目番号のみを記載する。タイトルのない8-Kでは項目番号が内容の種類を示すためである。その番号から、業績発表だったのか契約だったのかを知ることができる。具体的な内容は各リンクの原文で読む。
- 2020-09-21 8-K 項目 8.01,9.01 — その他の出来事・財務諸表・添付書類
- 2020-09-21 8-K 項目 8.01,9.01 — その他の出来事・財務諸表・添付書類
- 2020-10-05 8-K 項目 8.01,9.01 — その他の出来事・財務諸表・添付書類
この記事が答えられていないこと
要旨だけ読んだこの記事は、論文がどのような方法で何を再現し、どの程度まで示したかに答えられていない。企業が引用した論文がその後どのくらい引用されたかは、OpenAlexOpenAlex
データ源 · 公式サイトの引用数で再確認できる。次に見るべきことは、この企業の次の8-Kで同じ論文が再び引用されるかどうかである。
用語解説
- 8-K
- 米国上場企業が株主に報告する必要がある事項が生じた際に、証券取引委員会(SEC)に提出する随時報告書。業績、契約、役員の人事変更などの項目番号で種類を示す。この記事の事象はすべてこの文書から出ている。
- 超過収益
- 株価収益率から市場全体の収益率を引いた残り。市場全体の上下を除いて、その企業独自の動きを見るために用いる。
- 取引日
- 株式市場が開いている日だけを数えた日数。土日や休場日は除かれるため、20取引日はカレンダーで1ヶ月前後となる。
- サンプルとパーセンタイル
- 同じタイプの過去事例を集めた束が標本であり、その中で下から何番目であるかを百分位で表記する。百分位が10であれば、10件のうち9件がこの事例よりよかったことを意味する。
- 要旨
- 論文冒頭に掲載される要旨。何をどのように行い、どのような結果を得たかを著者が数文で記述する。本文を読まなければ方法の詳細や限界は把握できない。