ニューエングランド医学ジャーナル論文を根拠とした製薬会社の公表 — Tonix Pharmaceuticals, 2024-02-28
Tonix PharmaceuticalsTonix PharmaceuticalsNASDAQ TNXP
公表 SEC · 時価 Yahooが米国証券取引委員会に提出した開示資料で、New England Journal of Medicineに掲載された論文を主張の根拠として引用した。会社がその論文をどのように書いたか、そして論文が実際に示した範囲を順に読んだ。開示資料の後、1か月間の株価の動きが過去の同様の事例と比較してどの程度かを記述した。これは結果を知ってから書かれた後知恵的な判断である。論文は要旨部分まで読んだ。
公表は報道資料内で論文をこう書いた
米国上場企業が株主に知らせることがあると、証券取引委員会証券取引委員会 (U.S. Securities and Exchange Commission)
規制当局 · 公式サイトに提出する随時報告書を8-Kという。Tonix Pharmaceuticalsが2024-02-28に提出したこの文書の項目番号は7.01 Reg FD公開・8.01 その他の出来事・9.01 財務諸表・添付文書だった。会社はそこに添付した報道資料でNew England Journal of Medicineに掲載された論文を根拠に挙げた。論文を引用したその文を原文のまま転載すると以下の通りである。
N Engl J Med . 2024. 390(7):589-600 https://doi.org/10.1056/nejmoa2309439 2. Sanofi press release.
読者がまず見るべきなのは、企業がその論文をプレスリリースのどの部分に掲載したかである。次に、その論文が企業の主張全体を裏付けるものであるか、あるいは一部のみを裏付けるものであるかを区別する必要がある。後者の質問に答えるには、論文全文を読む必要がある。この記事は要旨までしか読まれていないため、それに答えることはできない。
論文の要旨で述べられた範囲はここまでである。
論文のタイトルはInhibition of CD40L with Frexalimab in Multiple Sclerosisであり、New England Journal of Medicineに2024-02-14に掲載された。著者の所属はInserm・バーゼル大学病院・ホスピタル・ベースである。論文冒頭に掲載される要約文は要旨と呼ばれる。この記事が読んだのはそこまでである。機械が要旨を読み、数字の照合によって下書きを絞り出し、その後人が再構成した段落であり、全文を読んだ正式な判定とはランクが異なる。
再発性多発性硬化症の患者を4つのグループに分け、CD40Lを阻害する抗体を静脈または皮下投与し、偽薬を投与した2相試験である。12週目時点の脳のMRIで造影剤が新たに染み込む病変数が主要指標であり、静脈投与群は偽薬群よりも明らかに少なかった。ダブルブラインド期間が終わると、すべての参加者が本物の薬を受けるように設計されており、ほとんどの参加者がその期間を終えている。12週間の試験であるため、再発や障害の進行などの長期的な結果はこの論文には含まれていない。
要旨が答えられない情報は、全文と付録に残っている。そこまで到達していないこの記事は、空白を空白のままにする。企業が引用した箇所が要旨のどの文に該当するかは、上記の2つの引用を照らし合わせて読者が自ら判断する。
1か月後には、株価はサンプルの中間の半分内にあった。
市場全体と同様に動く分を除いた残りの収益率を超過収益という。日付は株式市場が開いている日だけを数える取引日で記載する。カレンダーで言えば、20取引日は1か月前後である。この事例の公表当日とその後1か月の超過収益を下の表にまとめた。
| 期間 | 市場対比超過収益 | 意味 |
|---|---|---|
| 公表の5営業日前 | −2.5% | 公表前にすでに動いた程度 |
| 公表当日 | +2.1% | 公表日または翌初日 |
| +1〜+5営業日累計 | −1.1% | 1週間 |
| +1〜+20営業日累計 | −16.7% | 1か月 |
同じタイプの過去事例を集めた束を標本という。その中で下から数えたときの位置を百分位で表記する。この事例の1か月超過収益−16.7%は、標本142件のうち下から32%にあたる半分以内である。
| 標本目盛(20営業日) | 下から10番目 | 下から4番目 | 中央値 | 上位25% | 上位10% | この事例 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 超過利益 | −31.9% | −20.1% | −6.9% | +5.5% | +19.5% | −16.7% |
サンプルの半分は、表の中央の目盛りの間に入る。この事例がその中に含まれるか、外れるかを表から確認する。サンプルは、過去十余年前から米国上場企業が8-Kに論文を記載した事例を集めたものである。この企業自身はサンプルから除外した。ここに書かれた数字は過去の事実であり、次の事例に適用するルールではない。
同じ企業が論文を8-Kに記載した事例がサンプルに23件さらにあり、下の表に一緒に載せた。
| 開示日 | その論文の学術誌 | 1か月以上の超過利益 |
|---|---|---|
| 2018-01-22 | PLoS ONE | −15.3% |
| 2020-12-04 | Genome biology | +20.9% |
| 2020-12-23 | Genome biology | +32.1% |
| 2021-11-23 | JCI Insight | −11.5% |
| 2021-12-14 | JCI Insight | −23.9% |
| 2022-01-04 | JCI Insight | −38.1% |
| 2022-01-11 | JCI Insight | −31.8% |
| 2022-03-14 | Nature Structural & Molecular Biology | −9.3% |
公表後、企業はそのような文書を提出した
公表日以降に会社が提出した3件の8-Kについては項目番号のみを記載する。タイトルのない8-Kでは項目番号が内容の種類を示すためである。業績発表だったのか契約だったのかはその番号で判別できる。何が起きたのかは各リンクの原文で読む。
- 2024-03-05 8-K 項目 7.01,8.01,9.01 — Reg FD公開・その他の出来事・財務諸表・添付文書
- 2024-03-06 8-K 項目 7.01,8.01,9.01 — Reg FD 公開・その他の出来事・財務諸表・添付書類
- 2024-03-07 8-K 項目 7.01,8.01,9.01 — Reg FD 公開・その他の出来事・財務諸表・添付書類
この記事が答えられていないこと
論文の要旨だけを読んだこの記事では、論文がどのような方法で何を検証し、どの程度まで示したかについて答えられていない。企業が引用した論文がその後どのくらい引用されたかは、OpenAlexOpenAlex
データ源 · 公式サイト の引用数で再確認できる。次に見るべきは、この企業の次の 8-K で同じ論文が再度引用されるかどうかである。
用語解説
- 8-K
- 米国上場企業が株主に知らせなければならないことがあると、証券取引委員会(SEC)に提出する随時報告書。業績、契約、役員の人事異動などの項目番号で種類を表している。この記事のすべての出来事はこの文書から出ている。
- 超過収益
- 株価収益率(PER)から市場全体の収益率を引いた残り。市場全体が上がったり下がったりする分を除いて、この企業だけの動きを見るために使う。
- 取引日
- 取引市場が開いている日だけを数えた日数である。週末や休場日は除かれているため、20取引日は暦日で1か月前後となる。
- サンプルとパーセンタイル
- 同じタイプの過去事例を集めた束が標本であり、その中で下から何番目であるかを百分位で表記する。百分位が10であれば、10件のうち9件がこの事例より良いという意味である。
- アブストラクト
- 論文の冒頭に掲載される要約文である。著者が何をどのように行い、どのような結果を得たかを数文で記述する。本文を読まなければ方法の詳細や限界は把握できない。