精神医学研究論文を根拠とした製薬会社の公表 — Tonix Pharmaceuticals, 2024-02-12
Tonix PharmaceuticalsTonix PharmaceuticalsNASDAQ TNXP
公表 SEC · 時価 Yahooは、米国証券取引委員会(SEC証券取引委員会 (U.S. Securities and Exchange Commission)
規制当局 · 公式サイト)に提出した開示資料で、『Psychiatry Research』に掲載された論文を主張の根拠として引用した。会社がその論文をどのように書いたか、そして論文が実際に示した範囲を順に読み進めた。開示資料の後、1か月間の株価の動きが、過去の同様の事例と比較してどの程度かを記した。これは結果が分かってから書かれた後出し的な判断である。論文は要旨部分までを読んだ。
公表は報道資料内で論文をこう書いた
米国上場企業が株主に知らせることがあると、証券取引委員会に提出する随時報告書を8-Kという。Tonix Pharmaceuticalsが2024-02-12に提出したこの文書の項目番号は7.01 Reg FD公開・8.01 その他の出来事・9.01 財務諸表・添付文書だった。会社はそこに添付した報道資料でPsychiatry Researchに掲載された論文を根拠に挙げた。論文を引用したその文を原文のまま転載すると以下の通りである。
Psychiatry Res. 2024 (In Press). https://doi.org/10.1016/j.psychres.2024.115764 4. Goldstein RB, et al.
読者がまず見るべきなのは、企業がその論文を報道資料のどの部分に掲載したかである。次に、その論文が企業の主張全体を裏付けるものであるか、あるいは一部のみを裏付けるものであるかを区別する必要がある。後者の質問に答えるには、論文全文を読む必要がある。この記事は要旨までしか読んでいないため、それに答えることはできない。
論文の要旨で述べられている範囲はここまでである。
論文のタイトルはA phase 3, randomized, placebo-controlled, trial to evaluate the efficacy and safety of bedtime sublingual cyclobenzaprine (TNX-102 SL) in military-related posttraumatic stress disorderであり、Psychiatry Researchに2024-02-02に掲載された。著者の所属はMassachusetts General Hospital・Eloxx Pharmaceuticals (United States)・Tonix Pharmaceuticals (United States)・Boston Universityである。論文冒頭に掲載される要旨は要旨と呼ばれる。この記事が読んだのはそこまでである。機械が要旨を読んで作成した原稿を数字の照合によってフィルタリングし、人が再び書き直した段落であり、全文を読んだ正確な判定とはランクが異なる。
軍務と関連するPTSD患者に、寝る前に舌の下で溶かして服用するサイクロベンザプリン剤を投与した3相試験である。この薬は睡眠に関連する複数の受容体に作用し、睡眠を安定させることを狙っている。睡眠指標は早い段階から継続的に改善されたが、主要指標である12週目時点の症状スコアは偽薬との明確な差が見られなかった。4週目時点の指標や医師・患者の総合的な印象評価では差が見られ、外傷を経験してからの時間が短い患者では反応が分かれた。
要旨が答えられない情報は、全文と付録に残っている。そこまで到達していないこの記事は、空白を空白のままにする。企業が引用した箇所が要旨のどの文に該当するかは、上記の2つの引用を照らし合わせて読者が自ら判断する。
1か月後には株価はサンプルの中位の半分内にあった。
市場全体と同様に動く分を除いた残りの収益率を超過収益という。日付は株式市場が開いている日だけを数える取引日で記載する。カレンダーでいえば20取引日は1か月前後である。この事例の公表当日とその後1か月の超過収益を下の表にまとめた。
| 期間 | 市場対比超過収益 | 意味 |
|---|---|---|
| 公表の5営業日前 | −1.8% | 公表前の既存の動きの程度 |
| 公表当日 | +10.7% | 公表日または翌初日 |
| +1〜+5営業日分の累計 | +11.5% | 1週間 |
| +1〜+20営業日累計 | −13.2% | 1か月 |
同じタイプの過去事例を集めた束を標本という。その中で下から数えたときの位置を百分位で表記する。この事例の1か月超過収益−13.2%は、標本142件のうち下から38%にあたる中段の半分以内である。
| 標本目盛(20営業日) | 下から10番目 | 下から4番目 | 中央値 | 上位25% | 上位10% | この事例 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 超過利益 | −31.9% | −20.1% | −6.9% | +5.5% | +19.5% | −13.2% |
サンプルの半分は、表の中央の目盛りの間に入る。この事例がその中に含まれるか、外れるかを表から確認する。サンプルは、過去十数年間に米国上場企業が8-Kに論文を記載した事例を集めたものである。この企業自身はサンプルから除外した。ここに書かれた数字は過去の事実であり、次の事例に適用するルールではない。
同じ企業が論文を8-Kに記載した事例がサンプルに23件さらにあり、下の表に一緒に載せた。
| 開示日 | その論文の学術誌 | 1か月以上の超過利益 |
|---|---|---|
| 2018-01-22 | PLoS ONE | −15.3% |
| 2020-12-04 | Genome biology | +20.9% |
| 2020-12-23 | Genome biology | +32.1% |
| 2021-11-23 | JCI Insight | −11.5% |
| 2021-12-14 | JCI Insight | −23.9% |
| 2022-01-04 | JCI Insight | −38.1% |
| 2022-01-11 | JCI Insight | −31.8% |
| 2022-03-14 | Nature Structural & Molecular Biology | −9.3% |
公表後、企業はそのような文書を提出した
公表日以降に会社が提出した3件の8-Kについては項目番号のみを記載する。タイトルのない8-Kでは項目番号が内容の種類を示すためである。業績発表だったのか契約だったのかはその番号で判別できる。何が起きたかは各リンクの原文で読む。
- 2024-02-13 8-K 項目 7.01,8.01,9.01 — Reg FD公開・その他の出来事・財務諸表・添付文書
- 2024-02-15 8-K 項目 5.07 — 株主総会の結果
- 2024-02-27 8-K 項目 7.01,8.01,9.01 — Reg FDによる公表・その他の出来事・財務諸表・添付書類
この記事が答えられていないこと
要旨のみを読んだこの記事では、論文がどのような方法で何を評価し、どの程度まで示したかについて答えられていない。企業が引用した論文がその後どのくらい引用されたかは、OpenAlexOpenAlex
データ源 · 公式サイトの引用数で再確認できる。次に見るべきは、この企業の次の8-Kで同じ論文が再度引用されるかどうかである。
用語解説
- 8-K
- 米国上場企業が株主に知らせなければならないことがあると、証券取引委員会(SEC)に提出する随時報告書。業績、契約、役員の人事異動などの項目番号で種類を表している。この記事の出来事はすべてこの文書から出ている。
- 超過収益
- 株価収益率(PER)から市場全体の収益率を引いた残り。市場全体が上がったり下がったりする分を除いて、この企業だけの動きを見ようとするために用いる。
- 取引日
- 取引市場が開いている日だけを数えた日数である。週末や休場日は除かれているため、20取引日は暦日で1ヶ月前後となる。
- サンプルとパーセンタイル
- 同じタイプの過去事例を集めた束が標本であり、その中で下から何番目であるかを百分位で表記する。百分位が10であれば、10件のうち9件がこの事例よりよかったという意味である。
- アブストラクト
- 論文の冒頭に掲載される要約文である。著者が何をどのように行い、どのような結果を得たかを数文で記述する。本文を読まなければ方法の詳細や限界は把握できない。