「Journal of Neuroinflammation」論文を根拠とした製薬会社の開示 — Vaccinex, 2022-08-08
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公表 SEC · 時価 Googleは米国証券取引委員会に提出した開示資料で、Journal of Neuroinflammationに掲載された論文を主張の根拠として引用した。会社がその論文をどのように書いたか、そして論文が実際に示した範囲を順に読み進めた。開示資料の後、1か月間の株価の動きが過去の同様な事例と比較してどの程度かを記した。これは結果を知った後に書かれた事後的な判断である。論文は要旨までを読んだ。
公表は報道資料内で論文をこう書いた
米国上場企業が株主に報告する必要がある事項がある場合、それを証券取引委員会(SEC証券取引委員会 (U.S. Securities and Exchange Commission)
規制当局 · 公式サイト)に提出する随時報告書を8-Kという。Vaccinexが2022-08-08に提出したこの文書の項目番号は8.01 その他事件・9.01 財政諸表・添付文書であった。会社はその添付資料としてつけた報道資料で、Journal of Neuroinflammationに掲載された論文を根拠として挙げた。論文を引用したその文を原文のまま転載すると以下の通りである。
In parallel, a second report has been published in the Journal of Neuroinflammation 2 detailing the pathologic impact of SEMA4D on neuroinflammatory cells in both HD and Alzheimer’s disease (AD).
読者がまず見るべきなのは、企業がその論文をプレスリリースのどの部分に掲載したかである。次に、その論文が企業の主張全体を裏付けているのか、一部のみを裏付けているのかを区別する必要がある。後者の質問に答えるには、論文全文を読む必要がある。この記事は要旨までしか読んでいないため、それに答えることはできない。
論文の要旨で述べられている範囲はここまでのものである。
論文のタイトルはSemaphorin 4D is upregulated in neurons of diseased brains and triggers astrocyte reactivityであり、Journal of Neuroinflammationに2022-08-06に掲載された。著者の所属はVaccinex (United States) · University of Rochester Medicineである。論文冒頭に掲載される要約文は要旨と呼ばれる。この記事が読んだのはそこまでである。機械が要旨を読んで作成した下書きを数字の照合でフィルタリングした後、人が再び書いた段落であり、全文を読んだ正確な判定とはランクが異なる。
神経細胞で作られるセマフォリン4Dというタンパク質が、脳の支持細胞であるアストロサイトを反応性状態に変化させることを、人間の脳組織とマウスの実験で示した論文である。ハンチントン病とアルツハイマー病の患者の脳断片と疾患モデルマウスで、このタンパク質が多く含まれる神経細胞の周囲に反応性アストロサイトが集まっており、このタンパク質を抗体で阻害したマウスでは抑制性シナプスが少なくなっており、空間記憶が回復した。動物と培養細胞の実験であるため、人間において同じ効果が得られるかどうかはこの論文の範囲外である。
要旨が答えられないことは、全文と付録に残っている。そこまで到達していないこの記事は、空白を空白のままにする。企業が引用した箇所が要旨のどの文に該当するかは、上記の二つの引用を照らし合わせて読者が自ら判断する。
1か月後には、株価はサンプルの下位四分位以内にあった。
市場全体と同様に動く分を除いた残りの収益率を超過収益という。日付は株式市場が開いている日だけを数える取引日で記載する。カレンダーで言えば、20取引日は1か月前後である。この事例の開示当日とその後1か月の超過収益を下の表にまとめた。
| 期間 | 市場対比超過収益 | 意味 |
|---|---|---|
| 公表の5営業日前 | −5.7% | 公表前にすでに動いた程度 |
| 公表当日 | +4.9% | 公表日または翌初日 |
| +1〜+5営業日累計 | +0.5% | 1週間 |
| +1〜+20営業日累計 | −29.1% | 1か月 |
同じタイプの過去事例を集めた束を標本という。その中で下から数えたときの位置を百分位で表記する。この事例の1か月超過収益−29.1%は、標本142件のうち下から13%にあたる下位四分の一内である。
| 標本目盛(20営業日) | 下から10番目 | 下から4番目 | 中央値 | 上位25% | 上位10% | この事例 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 超過利益 | −31.9% | −20.1% | −6.9% | +5.5% | +19.5% | −29.1% |
サンプルの半分は表の中央の目盛りの間に入る。この事例がその範囲内に入るか外れるかは表で確認する。サンプルは、過去十数年間に米国上場企業が8-Kに論文を記載した事例を集めたものである。この企業自身はサンプルから除外した。ここに書かれた数字は過去の事実であり、次の事例に適用するルールではない。
開示後、企業はこのような文書を出した
開示日の後、この企業が提出した3件の8-Kを項目番号のみ記載する。タイトルのない8-Kでは項目番号が内容の種類を示してくれるためである。業績発表だったのか契約だったのかはその番号で判別できる。何の出来事だったかは各リンクの原文で読む。
- 2022-09-13 8-K 項目 7.01, 9.01 — Reg FD 公開・財務諸表・添付書類
- 2022-10-11 8-K 項目 3.01 —
- 2022-11-10 8-K 項目 7.01, 9.01 — Reg FD 公開・財務諸表・添付書類
この記事が答えられていないこと
要旨だけを読んだこの記事は、論文がどのような方法で何を再現し、どの程度まで示したかについて答えられていない。企業が引用した論文がその後どのくらい引用されたかは、OpenAlexOpenAlex
データ源 · 公式サイト の引用数で再確認できる。次に見るべきは、この企業の次の 8-K で同じ論文が再度引用されるかどうかである。
用語解説
- 8-K
- 米国上場企業が株主に報告すべき事項が生じた際に、証券取引委員会(SEC)に提出する随時報告書。業績・契約・役員の人事変更などの項目番号で種類を示す。この記事の事象はすべてこの文書から出ている。
- 超過収益
- 株価収益率から市場全体の収益率を引いた残り。市場全体の上下を除いて、その企業独自の動きを見るために用いる。
- 取引日
- 株式市場が開いている日だけを数えた日数。土日や休場日は除かれるため、20取引日はカレンダーで1ヶ月前後となる。
- サンプルとパーセンタイル
- 同じタイプの過去事例を集めた束が標本であり、その中で下から何番目であるかを百分位で表記する。百分位が10であれば、10件のうち9件がこの事例よりよかったという意味である。
- 要旨
- 論文の冒頭に掲載される要旨。何をどのように行い、どのような結果を得たかを著者が数文で記述する。本文を読まなければ方法の詳細や限界は把握できない。